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株式会社アサヒ商会 DX経営方針(79期)
1. 市場認識
生成AIの実用化により、企業の業務のあり方は急速に変わりつつあります。この変化は、当社の既存事業に対して機会と同時に不利益をもたらします。まずその両面を整理します。
業務のデジタル化が進むほど、紙への出力は減ります。複合機とその保守を収益の柱としてきた当社の構造は、この影響を正面から受けます。加えて、業務フローの理想形を描く作業そのものをAIが担えるようになれば、当社がこれまで提供してきたデジタル化支援の一部も置き換わっていきます。
一方で、AIが答えを返すことと、人がそれを受けて動くことは別の問題です。判断材料が画面上に揃っても、それが日々の動作に落ちなければ成果は生まれません。人が気づき、動くための仕組みを組み立てる仕事は、むしろ重みを増していきます。当社は、働く空間の設計、手元の道具、情報が目に入る導線という三つを一体で扱ってきた事業者として、この領域に軸を置きます。
さらに、オフィスの前提そのものが変わります。人間が主役の空間から、人間とAIが協働する空間へと移るなかで、什器、PC、ネットワークの構成は再設計を必要とします。文具小売についても、必要に迫られて買う消耗品としての需要は減っていきますが、AIが広く使われるほど、創造性や人の心の動きに応じる領域の価値は上がります。市場は縮小するのではなく、質が入れ替わると考えています。
課題は別のところにあります。賃金水準が上昇するなかで、従来と同じ売り場づくりと売り方のままでは、店舗の生産性を保てません。ここは業務の側にAIを入れて解決すべき領域です。
そして地域の中小企業に目を向けると、AI活用には構造的な壁があります。大企業は業務の分業が進んでいるため、業務をAIに実装しやすい状態にあります。対して中小企業では、その場で人が考えて処理する場面が多く、分業が進んでいないために業務が属人化し、可視化されにくい構造があります。結果としてAIに乗りません。個人の判断を丸ごと模倣させる方法もありますが、それではサービス品質がブラックボックス化してしまいます。可視化されていない業務を、AIが扱える状態に整えること、ここに地域の最大の需要があります。
2. 経営ビジョンとビジネスモデルの方向性
当社は79期を、AIレディな会社へ移行する期と定めます。AIレディとは、AIを導入した状態ではなく、業務が可視化され、情報が構造化され、AIに任せる範囲を自ら定義できる状態を指します。
ビジョンは、自らAIと共に働く会社になり、その過程で得た知見をもって、地域の中小企業をAIレディな状態へ導くことです。
ビジネスモデルの方向性として、次の順序を採ります。第一に、自社の業務を可視化し、定義を揃え、分散している情報を一元化します。第二に、その基盤の上に営業AIと業務AIを実装します。営業AIは付加価値を高めるために、業務AIは業務量を減らすために用います。第三に、この実装の工程そのものを、可視化と正規化から入る伴走支援として顧客に提供します。自社と顧客が同じ工程を辿るため、当社の実践がそのまま支援の内容になります。
3. DX戦略
3-1. 情報環境の整備
当社の業務情報は、基幹システム、Google Workspace、kintone、チャットに分散しています。AIに業務を担わせるには、どこに何があり、どのように管理され、何を参照すべきかが定まっている必要があります。79期はこの一元管理に着手し、AIが読める状態の情報基盤を構築します。
あわせて、業務そのものの定義と正規化を進めます。可視化されていない業務はAIに乗りません。何を付加価値とするのかについての認識が共有されていなければ、何を任せるべきかも決まりません。この工程を、AI実装の前提として位置づけます。
3-2. 営業AI(付加価値の向上)
法人向けには、顧客の業種と規模、既存の設置機器、過去の取引内容、商談での発言といった顧客データを蓄積し、提案の精度向上に用います。営業シナリオ、トークスクリプト、提案書の高度化に活用し、提案が相手の課題に届いているかを検証しながら運用します。
店舗については、79期にPOSを更新し、11月以降ジャーナルデータの分析が可能になります。何と何が組み合わせで購入されているかを解析し、売り場構成と販促計画に反映します。あわせて、長期在庫として保有すべき商品と都度調達すべき商品を、在庫コストと調達リードタイムの観点から分析し、仕入方針を組み替えます。
さらに、商品マスターの構造そのものを見直します。筆記具のように、単一のSKUの動きだけでは売り場の判断材料にならない商品群が多く、実際の売り場展開はシリーズ単位で行われています。AIを用いてシリーズマスターを生成し、SKU単位の管理からシリーズ単位の管理へ移行します。データを分析する以前に、業務の実態に合った粒度でデータを構造化する必要があるという認識に基づく取り組みです。
3-3. 業務AI(業務量の削減)
取扱商品は20万点を超え、個別に見積もることは現実的ではありません。基幹システムの販売ログと仕入データを突合し、仕入価格の変動に売価が追随していない箇所を検出する仕組みを構築します。
情報を探すことに費やしている時間を排除し、チェック業務を自動化することで、誤りの起きない運用に近づけます。
配送については、受注が確定した後に調整するのではなく、内示、定期補充の予測、見積段階の案件といった確定前の情報を集約し、積載、配送ルート、納品日を事前に計画します。
3-4. 業務プロセスの再設計
79期は、受注以降の処理を営業担当が行っていた運用を、内勤へ移管します。AIを実装する前に業務の所在と手順を明確にしなければならないという考え方に基づく取り組みであり、可視化と正規化を自社で先に実践するものです。
4. 推進体制と人材の育成・確保
AIの活用において、論理的な処理はAIが担いますが、何を実現したいかを表現することは人間にしかできません。当社はこの依頼する能力を組織的に高めることを、人材育成の中心に置きます。育成対象を二層に分け、それぞれ異なる目標を設定します。
一般層(正社員50名) は、発想の拡張を目標とします。目的は操作方法の習得ではなく、これはAIに任せられると気づく力の獲得です。難易度の低い活用事例を大量に提示する研修を実施します。全社員が利用できる生成AI環境において、各自が自分の業務に応じたカスタム設定を作成し、社内で共有する取り組みを継続します。自律的なエージェントの構築を最初から目指すのではなく、AIを使う場面を見分け、依頼を組み立てる能力の底上げを優先します。
高度層(選抜10名) は、業務構造の再設計を目標とします。エージェント開発に対応した環境の操作を習得し、業務フローをエージェントとして構成し、発生したエラーを自ら修正できる水準を目指します。AIを用いたプログラミングにより、業務の主たる構造そのものを組み替えます。あわせて、一般層が個別に作成した小規模な仕組みを連結し、一貫した業務フローへ再構成する役割を担います。各部門、各業務ユニットに複数名を配置します。
この二層構造により、現場から生まれた改善の芽が、部門を越えた業務フローとして定着する経路を確保します。
高度な領域については外部の専門家との協業を継続します。ただし、何ができるのかを社内で理解していなければ依頼そのものが成立しません。外部に委ねるためにも、社内の想像力を先に高める必要があると考えています。
5. ITシステム環境の整備
AIを業務に組み込むには、参照すべき情報が特定の基盤に集約されていること、そして業務端末からその基盤へ安全に接続できることが前提になります。79期は次の整備を行います。
情報基盤の統合として、複数のサービスに分散しているコミュニケーション情報を、全社の業務基盤としているクラウド環境上へ統合します。会話のなかに蓄積された業務判断や経緯を、AIが参照できる範囲に取り込むための整備です。
開発環境の整備として、エージェント開発に対応した高度な生成AI環境を10アカウント確保し、高度層に配布します。
接続環境の整備として、拠点間接続をVPNからSASEへ移行します。クラウド基盤への依存度が高まるほど、拠点を前提とした境界型の接続方式では、場所を問わない安全な接続と可視性を確保できなくなるためです。
データ保全として、クラウドバックアップの整備と多要素認証の全社適用を継続します。情報の一元化は、同時にリスクの集中を意味します。集約を進める前に、保全と認証の水準を引き上げます。
セキュリティについては、SECURITY ACTION二つ星の自己宣言に基づく対策を継続するとともに、79期中にサプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度における三つ星の取得を目指します。自社を最初の適用先として取得の工程を確立し、その知見を地域の中小企業への支援サービスとして提供します。
6. 達成状況の指標
DX戦略の達成状況を判断するため、次の指標を設定します。6か月ごとのキックオフミーティングにおいて全社で確認します。
企業価値に関する指標
一人当たり時間生産性を主指標とします。粗利益を総労働時間で除した値とし、事業部ごとに基準値と目標値を設定して管理します。あわせて粗利益額を、営業AIによる付加価値向上の帰着点として管理します。
戦略の効果を評価する指標
- 総残業時間の削減
- 仕入価格の変動に売価が追随していない箇所の検出件数
- 配送1便あたりの納品件数
- 一般層が作成し社内で共有したAI活用設定の累計件数
計画の進捗を評価する指標
- 一般層向け研修の受講者数(正社員50名)
- 高度層の育成人数(選抜10名)
- シリーズマスターの整備対象カテゴリー数
- コミュニケーション基盤の統合完了(79期内)
- SASEへの移行完了(79期内)
- セキュリティ対策評価制度三つ星の取得(79期内)